気のトレーニング書籍詳細〜続きを読む〜
【はじめに】
雑誌でもテレビでも、やたらに体の話や薬の話が出るように、世はまさに健康ブームである。だが、健康について本当にわかってきているのかというと、そうではないようだ。

たとえば、「運動不足は健康によくない」と、エアロビクスやジョギングなどを必死にやったりするが、これはおかしい。こうした運動は、基本的には筋肉を鍛えるものである。無理な運動をすれば、逆効果になる場合が多いのは、よく知られているところだ。
また、最近の健康法には、「これを食べるといい」と、食べ物をすすめるものが多い。しかし、シイタケやニンジンだけで健康が得られるわけがない。万病に動くといわれていても、人によっては向かないものもあるだろう。
このような健康に対する考え方は、いずれも不自然なものである。

私がこの本で紹介する、体を強くし、元気になるための健康術は、中国の長い歴史の中で育まれ完成されてきた「導引術」に基づいている。

「導引術」を一言で説明すれば、体を自然の状態に保つための方法といえる。では「自然の状態とは何か」といえば、体のそれぞれの器官が正常に働いている状態のことである。

人間はある程度成長すると、体に老化が始まる。本来の元気が失われ、自然な状態ではなくなってくるのだ。導引術ではそれを「邪気がたまっている」と考える。邪気がたまるというのは、体にひずみが生まれていることだ。

誰でも理解できるのが、幼児の寝姿だろう。幼児は、寝ながらよく体を動かしている。それも、昼間元気に遊んでいる子どもほど、よく動いているものだ。親は「寝相が悪い」とか、「カゼをひいてしまう」と心配する。 しかし、この心配は余計なもので、幼児は寝ているときに無意識に導引術をしているといえる。つまり、昼間の動きではあまり使わなかった筋や関節を動かして、たまっていた邪気を排泄して、新鮮な「気」を補充し、活力をたくわえているわけだ。このような、子どものあるがままの姿こそが導引術の基本だ。まさに「気の健康術」なのである。

幼児の寝姿をよく観察してみると、つねに体にとっていちばん自然な姿勢になっているのがわかる。たとえば、横向きになったときには、下側の腕は体とほぼ直角に伸ばし、上側の腕は少し曲げて、手のひらが腹か床につくようにしている。また、下側の足はまっすぐに伸ばし、上側の足は「く」の字に曲げている。やってみると、この姿勢なら背骨がまっすぐに伸びて、もっとも自然な状態になるのだ。
残念なことに、大人になると、こういう寝姿を無意識にとることはなくなってしまう。体の動きの習慣の積み重ねによって、体にひずみが生まれてしまうからだ。
もしこのひずみがなければ、人間はもっと健康に生活でき、寿命ももっとのびるはずである。ふつう、動物は成長期の五倍以上の寿命をもっている。この計算でいけば人間は成長期が二十年であるから、らくに百歳以上は生きられるだろう。

しかし平均寿命がのびたといわれている現在でも、八十歳に達するのがやっとではないか。そのうえ、六十歳を超えると体にトラブルが出る人がやたらに多い。しかも、その年齢がだんだん低下していることに恐怖を覚える。

これは、人間の体が自然に反する状態におかれているためである。もし、人間の体を本来の自然の状態に保つ方法があれば、人間はもっと若々しい状態で、らくらくと長生きができるはずだ。その方法こそが導引術なのである。もちろん、体を自然な状態にもどしてやることで、心もストレスから解き放たれた自然の状態になる。それが導引術の基本的な考え方だ。

この本では、体のさまざまな痛みや症状を軽くし、あるいは根本的に治す方法を導引術の立場から説明することにする。しかも、短時間で効果があり、体力も必要としないもの、また、どこでもやれるという点も考えて選んでみた。
「本当によくなるのだろうか」と不思議に思うかもしれないが、どの方法でもいいから試してみると、その効果にびっくりするはずである。

早島 正雄

(体を整える「気」のすべて まえがきより抜粋)